むし歯や重度の歯周病、歯に入ったひびなどによって口の中の細菌が、
すき間から歯の神経にまで入りこみ、神経が細菌に感染してしまいます。
一度感染した神経は痛みを伴い死んでしまいます。
そうすると神経が腐っていき、腐った神経の中で細菌がさらに繁殖し化膿します。
ひどくなると今度は歯の根の先端から膿が出て化膿してゆき、
顎の骨を溶かしていくということになります。
さらに進行すると、歯を支える顎の骨が大きく溶けて歯を支えられなくなり、
隣の歯にも感染が広がっていきます。
抵抗力が弱いと痛みを伴って腫れる場合もあります。
または、一度根の治療をしたはずの歯が、数カ月後~数年後に根の中で再度細菌感染により繁殖してしまい、痛みが出たり腫れたりするというパターンもあります。
根の治療そのものは、
①歯の上から穴を開けます。
②続いて神経部分まで到達したら、リーマーやファイルと呼ばれる、
針の先に刃物が付いた物にて根の内側の壁をカンナをかける要領で、
汚染されている部分の除去を行ってゆきます。
③そこに細菌を溶かす薬を用いたりして除菌を行います。
④根の内側がきれいになったら、さらに消毒薬を根の中に詰め、
無菌状態に近くなるまで消毒を繰り返します。
⑤無菌状態に近くなったら、根の中の空洞部分にガッタパーチャという
体に害のないゴム状の物で空洞を埋めます。
・・・よく私が患者さんにお伝えするのは、
根の治療は
「シロアリに食われた壁のように、ボロボロになった壁にカンナをかけて綺麗にする作業です。しかし、壁の内側にもシロアリがいるので、内側の残っているシロアリを消毒薬でやっつけるイメージです。」
とお伝えしています。
その為、根の治療には時間(回数)を要する場合も“多々”あります。
根がある程度の無菌段階になれば、今度は菌が再び根に入らないように、
ガッタパーチャという材料を根にぴったりと詰めて根をふさいでおきます。
詰める材料については当クリニックでは、科学的データに基づいて良いとされる厳選材料を使用しています。
実は、根の治療(根管治療)は歯科治療の中で使う道具の種類が一番多く、脳外科レベルと同じ、コンマ何ミリ単位の細かい作業です。
そして、しっかり消毒する為には、何度か患者さんに通院して頂く必要のある治療です。
(大きく個人差がありますが、早い場合で平均4回程、難症例では年単位でかかることもあります。)
実際には患者さんの目に見える部分ではありませんが、だからこそきちんとやる必要があるのです。
根の治療は根本的な大事な部分であり、家で例えると基礎工事のような部分です。
建ってしまうと目には見えないのですが、その後の耐久性を左右する非常に重要な部分です。
当院では
“なるべく歯を残す”・“可能な限り抜かない”
ということに徹底的にこだわっているので、根の治療については時間・回数をかけてしっかりと行っています。
抜くことはいつでもできます。“なるべく抜かずに”、“歯を使い切ること”が何よりも大切だと思っています。
教科書的には「歯が割れている」「歯が破けている」場合、原則は歯を抜かなければならないのですが、それでもやり方によって歯を残すことが出来た例はこれまでにも、当院では多数例あります。
分割歯の破折 | 破折根抜歯 | 残った分割根とブリッジ |
歯医者が100人いれば90人は抜くという歯でも、
残り約10%の歯医者は「何とか歯を残す努力をする」気概をもっています。
当院の場合もこの10%の「何とか歯を残す」スタンスで診療に臨んでいます。
抜歯適応の短い歯(膿も溜まっている) | 情熱を持って根の治療 | 専門的に駄目と思われた歯を復活させてブリッジ |
口の中の状態。現在も使用中 |
実際には明らかに歯を抜かなければならないという歯でも、
当院で治療と工夫によってその歯を維持されている患者さんも多数いらっしゃいます。
むし歯で溶けてボロボロの歯 | 根の治療後、土台を建てる | 噛める歯として復活 |
治療前のレントゲン | 治療後のレントゲン(現在も使用中) |
この根の治療こそが一般の医科(医療)にはない、歯科ならではの大きな特徴といえます。
神経がなくなると歯への栄養の供給が断たれます。
その観点でいえば、根の治療は歯をミイラ状態で口の中で機能させる処置なのです。
「これは知識と経験に裏付けられた技術がなせる技ともいえます。」
約1cm四方位のスペースの中で、目には見えないコンマ数ミリの根の先端を、各種器材をもちいて感覚と経験をもとに治療をおこなっていく訳です。
医療に絶対はないので、一度処置した根がまた痛くなるということも、事実としてはありますが、当院で一度処置したものを二度とやりなおさなくて済むよう時間をかけて最善を尽くし、長期的に予後が良いように目指しています。
一番左の歯の根が一カ所折割れています | 歯を半分に切って割れている根だけを抜きました | 残った根と隣の歯でブリッジにした6年後 |
割れた根を抜いた状態 | 残った根に土台を造る | 隣の歯とブリッジにした状態 |
その1つとして術前にレントゲンで影があり、根に対しての処置を行っていく際に、影がなくなったことを確認した上でなければ次のステップには進みません。
膿で骨が溶けた外科処置適応 | 体の治す力を引き出した根の治療(影が小さくなっている) | 外科処置無しで完治 |
教科書的には外科手術をしなければならないという症例でも、時間をかけて根の治療をおこなえば治るケースも多々あります。(例えば根の先から膿が漏れ出し、それが骨を溶かしている状態など)
他所にて2回外科処置が行われるも治癒傾向認められず | 原因を精査の上、当院にて長めの根の治療 | 外科処置なくして根の治療だけで完治の6年後 |
「はやく治してほしい」「はやく歯を入れて噛めるようにしてくれ」という要望にすぐに対応することは“医療的”観点からはあまり正しくないと言えます。
(大工の突貫工事になってしまい、後に再感染を起こす可能性が高まります。)
歯をしっかり残すためには医療側、患者さん側、双方共に根気と覚悟が求められます。
根の治療は目に見えない細菌との闘いです。
いかにこちらが想像力を働かせて細菌のない状態にもっていけるか?が重要なのです。
根の治療の概念は
「生体に害のない状態で、長期的に、維持・安定させること」
が目標です。
「痛くなくなった≠治った」
痛みが取れたから治ったのではないのです。
例えるならば、骨折してボルトで留めたからといってすぐに走ったりできるわけではないのと同じです。
体が自然に治す“治癒期間”というものが当然必要となります。
そのためには痛くなくなっても治るまでの期間を待つことも大切なのです。
まさに歯科医と患者さんとの二人三脚での取組になりますので、
その点についてどうかご理解を頂ければ幸いです。