床矯正(小児矯正)
歯を抜かない矯正・床矯正
1)治療としての矯正の必要性
「歯並びが悪い」とはどういうことでしょうか?
そもそも、顎の大きさに対して
綺麗に歯が並ぶスペースが無いために起こる状態です。
一般的に言われるようなデメリット(むし歯・歯周病になりやすいなど)以外にも、
歯並びが悪い=食べる際の偏りができる等の様々な可能性があります。
2)矯正と床矯正(しょうきょうせい)の違い
誰でも、歯を抜く前提でむし歯予防、ひいては子育てをしている親はいないはずです。
一般的に矯正には、
歯を抜いて針金をかけ、口の容積(ベロのある歯の裏側の容積)を結果的に縮めて
歯並びを良くする方法と、 [下写真]

針金によって綺麗に並びました |
床矯正のように顎や口の容積を広げて歯並びをキレイにする方法とがあります。
[下写真]

不正の歯並び | 床装置により拡大中 | 後戻り防止の為の保定(固定) |
当院が床矯正をメインに選んでいる理由は、
「歯を抜かなくていいこと」
に尽きます。
理論上、大人ももちろんできます。 [下写真]

27歳・女性 | 保定(固定) |
それ以上に良いのは
早めに“小児に治療開始”ができることです。
今までは子供の頃の乳歯の時点で、
「(大人の歯が生えてくるまで)もう少し様子を見ましょう」
と言われていたものを、早期に介入することにより

前歯2本が曲がって生えてきた | 前歯だけ揃える | それだけで他は自然な並びに |
口腔内の成長、つまりは成長期に個々の成長度合いに応じて
少し背中を押してやることにより、綺麗な永久歯の歯並びをうながし、
並びを整えるということが床矯正の特徴かと思います。

前歯の横の歯が奥に生えてしまった | 前歯を寄せながら横の歯を押し出す | 奥に生えた横の歯が前に出てきた |
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食事の時に足がブラブラしている | 軸を安定できるように電話帳で工夫 | |
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または、椅子の上で正座 | 足を地面につけて食事することが大切 |
口元の成長をうながすという意味では
食事の内容や食べ方、口輪筋の発達など、そういったものを意識してもらうことも必要になります。
(正しい食生活などを含めた食事の習慣などが、良い歯並びになる為に必要だからです。)
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口の周り(口輪筋)の力が弱いことによる歯列不正 |
早い時期から始めることにより、変な癖を持たない、
例えば口をぽかんと開けたりしないなど、
早期に良い口腔機能の習慣を獲得して頂くことを目標ともしています。
床矯正の場合はそういったトータルとしての治療であると
イメージして頂ければと思います。
つまりは、矯正器具さえつければそれでよし、という事ではないのです。
場合によっては乳歯の一部を調整したり削ったりすることによって
歯並びを誘導する治療(咬合誘導)を併用する場合もあります。 [下写真]

大人の歯が生えてくるスペースが無いので乳歯を削る | さらに乳歯を削る | 乳歯を削るだけで永久歯がきちんと出てきた |
床矯正の良い所は
①早期から口腔内空間の拡大を目指すため、治療の介入が最小限で済むように、
口腔内の状態が改善してゆき歯を抜かなくて済む。
②幼少期から良い口腔機能を習慣化をめざしていく為、矯正治療後も安定しやすい
③早期の子供のうちから行えるので歯の動きが早い
などのメリットがあります。
”歯を抜く矯正“という選択肢を
最終的な切り札として残すことが可能です。
その点からしても、早めの幼少期に対策を取る方法として
床矯正は第一選択となりうる治療といえます。
また、床装置の取り外しができるので、「笛をふく」「英語の発音」「写真撮影」など、どうしても気になる際には外すことが可能です。
(逆にいつも外していると治療が進まないといったデメリットにもなり得ます。)
近年は床装置を使う事と、針金のワイヤー矯正をうまく組み合わせて早い段階で
良い歯並びを完成させている場合も多くなってきています。 [下写真]

床装置により拡げてすき間を作る | すき間ができたので針金をつける | 綺麗に並び、早く治りました |
成長度合いと共に治療の方向性を考えていく必要があるため、
治療は個々の成長度合いを見ながら最良の選択肢を選ぶ、
といった流れになります。
「どれくらい期間がかかりますか?」
という保護者の方々の質問に対しお答えしているのは、
ご自身たちがどのような状態を目指したいのか?
例えば
「前歯のガタガタだけを治したい」ならば比較的早めですし、
ゴールを「大人の歯がすべて生えそろうまで」とするならば、
最後の永久歯である第二大臼歯が生える14歳前後までは必要です。
実際に当院では永久歯がすべてきれいに並んでいることを目標とする方が多いため、
少なくとも中学生位まで関わっていく方が多いです。
「前歯のガタガタだけを治したい」あるいは「上あごなら上あごだけ」、
といった片方だけでの治療や、 [下写真]

下の前歯の曲がりだけの治療希望 | 床装置ですき間を作り | 下の前歯だけの治療で綺麗に治りました |
「1~2歯の受け口」「反対咬合」などの
特定の状態に対応できるのも床矯正の良い所です。 [下写真]

部分的受け口 | 上の前歯だけを押し出して | 下の歯も自然に治りました |
6歳臼歯や前歯が生え変わってきたタイミングで
ご相談頂ければ治療に取り掛かることができます。 [下写真]

生え変わりの初期で既に不正が・・ | 噛み癖を意識してもらい・・ | 改善傾向に・・ |
もちろん当院では大人を含めた矯正として、床矯正以外にもワイヤー矯正治療を行いますが歯を抜かないで済む範囲内で行っています。 [下写真]

歯のすき間と斜めになっているのが気になる | 針金によってすき間と斜めを同時改善 | 綺麗になりました |
3)そもそも床矯正とは何か?
床矯正装置は1935年、ヨーロッパのウィーンの歯科医師Schwarzが現在の治療の基礎を確立しました。
当時の矯正治療器具は貴金属を使った高価なものでしたが、
世界大戦後の不況のため、貴金属を使用しない入れ歯タイプの床矯正装置がヨーロッパで一気に普及しました。
実際に1960年代後半のヨーロッパでは矯正治療といえば床矯正治療が主流でした。
一方アメリカでは、歯を抜歯してスペースを作り、固定式のワイヤーで歯を並べる治療が主流で、「歯並びとはこうあるべき」という理想形を追求する厳密な治療が進歩したため、矯正歯科専門医のみが治療をおこなっていた経緯があり、日本の矯正学はアメリカの矯正学が基盤であるためにワイヤーによる固定式矯正が定着し、あまり床矯正による治療方法が普及してこなかったのが現状です。
1993年のDr.Mossの調べた報告によれば、
ヨーロッパ各国での固定式ワイヤー矯正治療を行っている割合は
ドイツで30%
イタリアで40%
イギリス65%
にしかすぎません。
ヨーロッパでは半数近くが床矯正を使用しており、
床矯正は矯正の第一選択としては世界的に認められている方法です。
また日本国内の大学病院などでも
近年は床矯正の使用頻度が見直されてきているのが現状です。
【著者】デンタルオフィス宮村
院長(歯科医師) 宮村壽一