自家歯牙移植・再植とは文字通り、自分の歯を別の場所に移し替えたり(移植)、
同じ場所で植え直したり(再植)する治療です。
一番左の歯(奥歯)が割れています | 左の写真の☆の根を抜いて、△の根を抜いた場所に植え替えています | 現在も問題なく機能し続けています |
歯が無い所に、不要な親知らずを移植して再利用するなどもあてはまります(移植)。
間の歯の無い所に | 上の親知らずを移植し | 単独の歯としました |
上手くいけば元々ある“自分自身の歯”を“根の治療をして冠を被せた歯”と同程度の状態にまで持っていくことができる治療方法です。
ただし、移動させる歯の状態によっては、歯の根が複雑すぎたり、抜歯している途中で根が折れてしまったり、歯と骨が癒着しているような状態だと移植や再植を断念せざるを得ない場合もあります。
インプラントが世に出るまでは、
技術力の高い、一部の臨床家達の間で用いてこられた治療方法です。
移植はどうしても「高い診断力」と「高度な技術力」が必要になってくるため、
現在では手順が簡便にシステム化されているインプラントのほうが、一般的に用いられる頻度は多くなっています。
しかしながら実は最近、移植が少しずつ見直されてきているという事実もあります。
もちろんテクニックや成功率などのハードルは種々あるのですが、インプラントのような人工物よりも、生物学的に自然である自分自身の歯を利用できるということのメリットが一番の根底にあるようです。
デンタルオフィス宮村での移植においては、
「元々歯があったのと変わらないよう機能させていく移植方法」と、
インプラントだけは絶対に嫌!という要望の代替えとして
「移植歯を何としてでもくっつける移植方法」を選択して使い分けています。
後者の「何としてでもくっつける移植方法」を含め、
当院で行った全移植症例中、1番最短の症例でも5年間はその移植した歯を使うことができています。
これを“たった5年”と思うか、
“5年間も無くならずに歯として使えた”と思うか、
は患者さん自身の主観による所も大きいですが、
人工物でない本来ある自分の歯を“最低でも5年間使える”
というメリットは大きいかと思います。
(ちなみに最長は約20年間、問題なく使えており、今現在もなお記録更新中です)
再植術前 | 現在 |
再植後、約1年 | 約20年後 |
割れている歯を抜歯します | 親知らずを移植しました | ブリッジとして使いました |
移植後約10年 | 現在の正面 (わりと自然に見えます) |
移植後約20年(現在) |
インプラントの10年予後の定着率は約90数%ですが、
デンタルオフィス宮村での自家歯牙移植は約75%という認識です。
もちろん患者さん自身の歯に対する理解やお手入れも必要で、
それによって予後経過も大きく変わります。
しかしながら、インプラント周囲炎(インプラントの周りに炎症が起こり、腫れたり、膿んだり、骨が溶ける状態)の一般的発症状態を含めて考えると、予後経過には格段に大きな差はないように思います。
(くどいようですが、約20年に渡って現在も問題なく使えている患者さんもいます)
後々の体への影響諸々を考慮すると、インプラントに劣っているとは一概には言えないと思っています。(※インプラントのメンテナンスについてのリスクはこちら)
ただし、インプラントを完全否定しているのではありません。
当院でもインプラントを行う場合もあります。
患者さんの強い希望で寝ている歯は抜かない方針となりました | 細心の注意で左下に 2本のインプラントを入れました (現在も使用中) |
右下の歯の無い所に 2本インプラントを入れました |
現在も問題なく使えています |
大切なのは、
「適用症例を見極めた、治療方法の選択」が必要で
これこそが重要だと考えております。
大前提として、移植する歯と、移植される場所が、基本的にほぼ同じような大きさでなければ移植は困難です。
例えば、親知らずを“下の前歯に移す”といったことは難しいです。
(軽自動車の駐車場に大型車を停められないのと同じです)
適応をよく吟味し、高い診断力と高度な技術力を駆使することで、
移植を行うことが可能な場合もあります。
前歯に近い部分の歯が割れています | 狭い場所に大きな親知らずを移植しました | 移植後約20年が経過し 問題なく使用しています |
移植そのものは決して“万能”という訳ではありません。
しかしながら、
例えダメになったとしても顎の骨が減って吸収していないこと、
ゆえに、その後からでもインプラントを行うことが可能であること、
また、顎の骨がしっかりしているので入れ歯を行う時にも安定しやすいこと、
などの側面もあり、長い人生の中では後々にメリットとなる部分もあるのです。
インプラント治療を含めた、種々ある治療法の中の選択肢の1つとして認識頂ければと思います。